木から生まれる日本の伝統工芸。木の個性を生かしたものづくり

木から生まれる日本の伝統工芸。木の個性を生かしたものづくり

木は、私たちの暮らしの中で昔から使われてきた、とても身近な素材です。

家や家具、器、道具。

そして、子どもたちが遊ぶおもちゃ。

これまでの記事では、スギやヒノキなどの木の特徴や、木目、森林について紹介してきました。

今回は、そこからもう一歩、話を広げてみたいと思います。

日本では、木の特徴を生かして、どんなものが作られてきたのでしょうか?

実は日本には、木を使った伝統工芸がたくさんあります。

木の種類による色や木目の違い。

硬さや柔らかさ。

曲げやすさ。

削ったときの表情。

職人たちは、木の持つそれぞれの個性を見極めながら、さまざまな道具や工芸品を作ってきました。

今回は、その中からいくつかをご紹介します。


木の違いを「模様」にする――箱根寄木細工

最初に紹介したいのが、神奈川県の箱根寄木細工です。

箱根の山には、さまざまな樹木が育っています。

箱根寄木細工は、そうした木々が持つ自然の色や木目の違いを組み合わせ、幾何学模様を作り出す工芸です。江戸時代後期、箱根の畑宿で生まれたとされています。

寄木細工の面白さは、木そのものの色や木目を、模様として利用しているところです。

たとえば、濃い色の木と明るい色の木。

まっすぐな木目の木と、違った表情を持つ木。

それぞれを組み合わせることで、幾何学的な美しい模様が生まれます。

箱根寄木細工には、「六角麻の葉」「青海波」「七宝矢羽」など、さまざまな伝統模様があります。

一見すると「絵のような模様」ですが、その模様のもとになっているのは、さまざまな木そのもの。

前回紹介した「木には一本一本違った木目がある」という話が、ここにもつながってきます。


スギを「曲げる」――大館曲げわっぱ

次に紹介したいのは、秋田県の大館曲げわっぱです。

曲げわっぱは、その名前の通り、木を曲げて作る器です。

大館曲げわっぱでは、弾力性に富み、美しい木目を持つ天然秋田杉を薄く加工し、熱湯につけて柔らかくしてから曲げて形を作ります。

最後は山桜の皮で縫い止めて仕上げます。17世紀後半から大館で発展し、1980年(昭和55年)には国の伝統的工芸品に指定されました。

ここで面白いのは、スギの性質そのものが工芸につながっていること。

スギは比較的軽く、木目が美しい木です。

そして、薄くした板を曲げて使うという技法によって、お弁当箱や器などに姿を変えています。

同じ「木」でも、

「木目を模様として楽しむ」

「木を曲げて形を作る」

と、使い方がまったく違うのが面白いところです。


木を「削る」――南木曽ろくろ細工

長野県南木曽町に伝わる南木曽ろくろ細工も、木の特徴を生かした伝統工芸です。

南木曽町の伝統工芸 | 南木曽町役場

厚い板や丸太をろくろで回転させながら、カンナで削って器などの形を作ります。18世紀前半に誕生したとされ、国の伝統的工芸品にも指定されています。

南木曽地域では、ケヤキ、トチ、センノキ、カツラなど、木目の美しい広葉樹が使われてきました。

ろくろを回しながら木を削っていくことで、木の表面に現れる木目を生かした器が生まれます。

「木を曲げる」のではなく、木を回して、削って、形にする。

ここにも、木の性質を理解してきた職人の技術があります。


木を「組み合わせる」――江戸指物

そして、東京にも木を使った伝統工芸があります。

江戸指物です。

江戸指物 | 東京の伝統工芸品 | 東京都産業労働局

「指物」とは、釘を使わず、木と木の接合部分を加工して板などを組み合わせて作る家具や道具のこと。

江戸指物では、桑、ケヤキ、キリ、スギなどの木材が使われ、木そのものの美しい木目を生かすことが特徴です。

外から見える部分だけではなく、木と木をどう組み合わせるかという「見えないところ」の技術にも大きな特徴があります。

釘に頼らず、木の形を加工して組み合わせる。

木の性質を知っていなければできない、高度な技術です。

東京都の資料では、江戸指物は「何十年も使い続けてほしい」という職人の思いとともに、使い込むことで味わいが増していく工芸品として紹介されています。


「木」なのに、こんなに違う

ここまで、いくつかの工芸品を見てきました。

箱根寄木細工は、木の色や木目の違いを組み合わせる。

大館曲げわっぱは、スギを曲げる。

南木曽ろくろ細工は、木を回して削る。

江戸指物は、木と木を組み合わせる。

同じ「木を使ったもの」でも、こんなに違います。

そして、その違いを生み出しているのが、

木の種類や性質、木目、硬さ、しなやかさなど、それぞれの木が持っている個性です。


日本では、木の「個性」を生かしてきた

ここまで見てきたように、日本の木の伝統工芸には、木の種類や性質を生かしたさまざまな技法があります。

その背景には、

「この木には、こんな使い方ができる」

という、木と向き合ってきた人々の知恵があります。

木は、どれも同じではありません。

色も、木目も、硬さも、香りも違います。

その違いを知り、それぞれの木に合った使い方を考えること。

それが、日本の木工文化の面白さのひとつなのかもしれません。


木を知ることは、文化を知ること

こうした伝統工芸を見ていると、「木育」は森林や木材について学ぶだけではないことにも気づきます。

「この木は何だろう?」

「どうしてこの木を使うんだろう?」

「どうやってこんな形にしたんだろう?」

そんな疑問から、木の種類や性質だけでなく、日本の暮らしや文化にも興味が広がっていきます。

木を知ることは、木とともに暮らしてきた人々の知恵を知ること。

それも、木育のひとつなのではないでしょうか。


そして、積み木も「木の個性」を楽しむ

積み木は伝統工芸品ではありません。

でも、木でできているからこそ、木目や色合い、手触りなどに一つひとつ違いがあります。

同じ形の積み木でも、よく見ると少しずつ表情が違う。

その違いを感じながら、今度は遊ぶ人が自由に形を作っていく。

職人が木の個性を生かしてものを作るように、子どももまた、木の積み木を使って自分だけのものを作ります。

そう考えると、伝統工芸と積み木には、少し似たところがあるのかもしれませんね。


木を知ると、身近なものが少し違って見える

普段何気なく使っている木の器や家具、そして積み木。

その一つひとつには、木の性質を知り、工夫しながら使ってきた人々の知恵があります。

そんな小さな興味から、日本の木や文化への関心が広がっていくかもしれません。

今回のシリーズでは、積み木の歴史から始まり、スギやヒノキ、木目や森林、そして木育についてお話ししてきました。

木は、遊びの材料であると同時に、日本の暮らしや文化をつないできた素材でもあります。

積み木を手に取ったとき、そんな「木の面白さ」を少し感じてもらえたら嬉しいです。